深部静脈血栓症とは

深部静脈血栓症は、比較的深いところの小さな静脈にできた血栓が次第に大きくなり、血管からはがれ血流にのって心臓を通り、肺の動脈につまってしまった状態を肺血栓塞栓症(肺梗塞)といいます。

ただし、小さな静脈が閉塞を起こしても、それ自身はほとんど問題となる症状をおこすことはなく、問題となるのは肺梗塞です。最近の報道でよくご存じかも知れませんが、エコノミークラス症候群も同じ病態です。

長時間同じ姿勢で、下肢を動かさないでいると、静脈の血液の流れが悪くなり血栓ができやすくなります。もともと、血液がかたまりやすい体質の人や、水分の不足などの悪い条件が重なるといっそうおこりやすくなります。

手術に伴う深部静脈血栓症のほとんどは、麻酔の影響で下肢を動かさない状態が続くこと、手術後も痛みのために下肢を動かせないことから血栓ができやすくなっています。また、手術中の出血をおさえるための駆血帯などの影響もあるといわれています。

例えば、下肢手術において、下肢の深部静脈血栓がおこる頻度は何の予防的な措置もしない場合20~40%になるといわれていますが、何らかの症状を引きおこすことはまずありません。ただし、肺梗塞を起こす頻度は0.1%程度ですが、その致死率は50%にも及びます。

以前は深部静脈血栓症・肺梗塞は日本には少なく、欧米に多いとされていました。最近の研究から日本でもその頻度は欧米と同じ程度と考えられており、厚生労働省も2004年に深部静脈血栓症予防ガイドラインを作成公表しました。それに基づき種々の予防がなされるとともに深部静脈血栓の検出も重視されつつあります。

予防

予防法としては、手術前から血栓ができやすい方の聞き取り、血栓を認めた場合の対処、手術後は、下肢の弾性ストッキングの使用、機械での下肢のもみ上げ、足関節を動かす訓練、早期離床(早めにベッドから起きて活動すること)、脱水の予防(水分を十分とること)があげられます。最近では予防薬剤の進歩もみられています。

検出方法としては血中のD-ダイマー(血栓ができたとき高くなる)の測定、視覚的な検査では静脈造影や造影CTなどがあります。また最近では、痛みもなく安全に繰り返し検査することが可能なエコー(超音波)検査の有用性が認められてきています。

当院での取り組み

当院では、① 血栓症の既往歴や、②肥満度など、血栓症のリスクを評価表を用いて評価し、③手術前のD-ダイマーの測定や、血栓症のリスクが高い症例では④手術前下肢エコー検査を実施しております。

その他、⑤ 手術前から足関節の運動訓練の指導、⑥ 手術中の薬剤使用や下肢マッサージ、⑦ 脱水の防止、⑧ 手術後の下肢のもみ上げを行う機械の使用、⑨ 術後3日日・7日日にD-ダイマー測定、⑩ 手術翌日から1~2週間抗血栓薬剤の使用、⑪ 手術翌日の起きあがる前に全例ベッドサイドで下肢エコー検査を実施、血栓がなければ、手術翌日より早期離床をはかり、足関節部を中心として動かす訓練を行います。

血栓があった場合、その対処および経過観察を行います。太もものソケイ部(つけ根)~膝のうらの下肢深部静脈近位部と呼ばれるところに血栓が認められた場合、血栓溶解療法と共に、血管内フィルターの必要性を検討後対処します。

当院では、肺梗塞の発生を限りなく0に近付けていく努力を続けています。