大腿骨近位部骨折とは

「大腿骨近位部骨折」とはどんな骨折なのか

大腿骨近位部骨折の図1

身体の中では足の付け根、股関節にあたる大腿骨近位部には、ボールの形をした大腿骨頭と少しくびれた大腿骨頸部と大きく張り出して筋肉の付着部となる大腿骨転子部があります。ほとんどの股関節骨折は、大腿骨頸部または大腿骨転子部(転子下)で発生します。

この骨折は50歳以下では男女とも10万人当り10以下で発生はごく少ないのですが、60歳以上で徐々に増加し、70歳以降になると急増します。高齢者にこの骨折が多い理由は、加齢による変化で多かれ少なかれ骨が弱くなっていることに加え、身のこなしが鈍くなり転倒しやくなっているからです。

お年寄りは屋内でつまづいたり、ベッドからずり落ちたりなどの小さな外力で骨折します。高齢化社会を迎えて、年々患者数は増加しており、2010年には約17万人、2030年には約26万人、2043年には約27万人と予測されています。

症状

多くの場合は、痛みと力が入らないために転んだその場で動けなくなります。ごくまれに骨折部がかみ込んだり、ひびが入った程度の場合は歩けることもできますが、股関節部の強い痛みが続きます。

検査と診断

病院ではまずはレントゲン写真を撮ります。骨折が明らかな場合はここで診断がつきます。しかし骨折線が細い場合は最初に撮影したレントゲン写真では確認できないことがあります。

ここで骨折はないと判断してしまうと、患者さんは痛いながらも歩いてしまい、結果ずれていないヒビだけの骨折だったのが、いよいよボッキリ折れてしまうことがあります。したがって当院では入院し、安静にして早急にMRI検査を行い、骨折の有無を判断することがあります。

治療法

治りにくい骨折の代表格で、ギプスやベッド安静だけでは治るのに長い時間がかかり、高齢者ではその間に立ち座りのみならず、痛みのために自由に身体が動かせずに寝たきりになり、床ずれを作ったり肺炎を起こしたりして、骨折が原因で徐々に弱っていきます。

このような理由で、現在では手術をして術後早くから起きて歩いていただくことが治療の主流となっています。

手術療法

大腿骨転子部・転子下骨折
ガンマネイル
ガンマネイル

転子部・転子下骨折に対して当院では一貫して手術治療を選択し、患者さんの早期社会復帰を目指してきました。そして、1991年に徳永理事長が渡仏し、ガンマネイルという新しい内固定材(大工道具で言うところの釘やかすがい)を導入すると、より安定した手術成績を残せるようになりました。

ガンマネイルの強い固定力で、いままでは手術が難しかった骨折型もより簡単に固定でき、手術翌日より安心して歩いていただくことができるようになりました。

1998年からは、徳永理事長のアイディアにより、ガンマネイル手術をより簡単にできるようにするワンショットガイドという機械を開発し、私が実際に手術に応用し、その有効性を学会に発表してきました。ワンショットガイドは、今では全世界で使われて好評を博しています。

現在でも私たちはガンマネイルの開発にかかわり、より安全により強固に手術ができるように日々アイデアを出しています。その活動はガンマネイルのフラッグシップホスピタルとして国内外で知られています。

大腿骨頸部骨折
人工骨頭
人工骨頭

大腿骨頸部には骨頭を養う大事な血管があります。転倒し骨折してずれが生じるとこの血管を損傷することがあります。この血管はとても小さいので縫うこともできませんし、実際に血管が損傷しているところを確認するのは困難で、レントゲン写真での骨折のズレの程度で判断することが多いのです。

血管が損傷していた場合は、骨折部が癒合しても骨頭部の血流が途絶えているので、徐々に骨頭が腐って陥没していく骨頭壊死が起こることがあります。ズレが小さいときは骨折部を特殊な釘で固定します。

しかしズレが大きいときは骨頭壊死の発生を考慮して、骨折した骨頭を摘出して人工骨頭(要するにひどい虫歯を抜いて入れ歯にするようなもの)置換術を行います。いずれも手術翌日から歩けるようになります。

最後に

この骨折の患者さんは大部分が高齢者で、皆さん手術に対しては抵抗があるようです。しかし、放っておくと骨折部が治らないばかりでなく、寝たきりになり生命の危険も考えないといけない状態になります。

大変だとは思いますが、皆さんが再び歩けるようになるために当院では全力を尽くしますので、どうぞ医師の説明をしっかりお聞きになり、ご判断ください。