橈骨遠位端骨折とは

原因と症状

前腕部は橈骨(親指側)と尺骨(小指側)の二つの骨でできています。橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)は橈骨の手首に近いところで折れる骨折のことで、転んで手をついたときに起こる比較的頻度が高い骨折です。同時に尺骨の骨折も起こすことがありますが、橈骨の骨折の方が重要である場合が多いです。

高齢者では、骨粗鬆症や転倒しやすいなどの理由により、若いときには骨折しない程度でもこの骨折を起こすことがあります。またこの骨折は、高齢者でなくても小児の転倒やスポーツの怪我などでも見られますし、青壮年においても自転車やバイク事故などの比較的大きな外傷で骨折をきたすこともあります(かなり前の話ですが、ヤンキースにいたころの松井秀喜氏がレフトの守備で転倒し、この骨折を起こしています)。

受傷の仕方は、多くの場合は転倒などにより手をつくことで発生します。手首を直接ぶつけるわけではなく、転倒時に手のひらをつくことで手首に力がかかって骨折を生じ、痛みや腫れが出現します。骨折部のずれが強い場合は、見た目でも手首が変形していることがあります。

検査

病院での検査は、レントゲンが基本であり、必要時はCTの検査を追加します。当然CTでの検査はレントゲンよりも詳細な情報が得られるため、時にレントゲンよりもひどい骨折だったことが分かることもあります(図1)

レントゲン写真1

▲図1

治療法

レントゲン写真2

▲図2

骨折治療の原則は骨折のずれがひどいかどうかによります。小児では多少のずれは成長とともに元に戻る自然矯正能力があるため、ある程度のずれは許容されギプスで治療することも多くみられます。しかし一定以上のずれは戻らないため、手術を必要とすることもあります。小児では、大人のようにスクリューなどを使用すると逆に成長障害をきたす恐れがあるため、骨折部をある程度戻しワイヤーを用いて骨を固定する方法が取られます(図2)

大人でも骨折のずれが小さい場合はギプスでの治療が行われます。この場合、小児でも大事なことですが、骨が固まった時に指も固まっては困ります。ギプスをされても指はしっかりと動かすことが大切です。

骨折のずれが大きい場合は、小児とは違って大人には自然矯正能力がないため、ずれたまま骨が固まると元に戻ることはありません。当然、ずれて骨が固まると手首がよく動かなかったり痛みが残ったりします。このため手術でしっかりと元に戻して、骨折部を固定することが必要となります。しかし超高齢者では、合併症や活動性などを考え手術を回避するために、ある程度ずれたままでも致し方なしとギプスでの治療を選択することもあります。

レントゲン写真3

▲図3

手術は麻酔の専門医による全身麻酔にて行われます。骨折部のずれを元に戻し、手のひら側からチタン製のプレートを当てスクリューで固定します(図3)。一見よくあるプレートのようですが、プレートとスクリューもねじ切りにより固定されるかなり特殊なものなのです。

複雑な骨折の場合は手術中に、手首に関節鏡を挿入し関節表面の軟骨にずれがないよう細心の注意を払います。術後は、早期に指の運動を開始し、徐々に手首の運動も行っていきます。通常3ヶ月程度で骨折部の治癒は得られますが、症状の完全に落ち着いた1年前後で抜釘の相談をしています。使用したチタン製のプレートやスクリューは発がん性もなく、錆びるものでもないのですが、指を動かす腱がこすれて切れるという報告があるため超高齢者(麻酔をかけ、短期間の入院も必要なため)を除けばプレート、スクリューを抜釘することを勧めています。