ロコモティブシンドロームとは

骨・関節・筋肉・神経などの運動器の障害のために、移動機能の低下をきたしている状態を「ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome、略称:ロコモ、和名:運動器症候群)」と言います。

運動器とは、①身体を支える骨、②曲がりや衝撃を吸収する関節軟骨や椎間板(ついかんばん)、③身体を動かしたり制動する筋肉や神経系の3つで構成されており、人の健康を支えている根幹です。ロコモとは加齢や生活習慣により、このいずれかもしくは複数に障害が起こることで、歩行や日常生活になんらかの障害をきたしている状態です。(図1)


「運動器」の各パーツ

(日整会HPより)

▲図1

ロコモが進行すると暮らしの中での自立度が低下し、介護が必要な状態になったり、寝たきりになるなどの可能性が高くなります。2007年、日本整形外科学会は人類が経験したことのない超高齢化社会、日本の未来をみすえて、このロコモという概念を提唱しました。ロコモは「放っておけば要支援・要介護の状態になる可能性のある、変わりうるけれども慢性的、永続的な運動器の障害」を意味します。

要支援・要介護状態の要因の第1位は「運動器」!

健康寿命とは「健康上問題のない状態で、元気に自立した日常生活を送れる期間」のことです。

2013年度のデータでは、平均寿命から健康寿命を引くと、男性は約9年、女性は約12年となっています。つまり支援や介護が必要となる期間が9~12年もあるということです。自立度の低下や寝たきり、つまり要支援・要介護状態は健康寿命の最大の敵です。そして要支援・要介護にいたる要因の第1位(全体の25%)は「運動器の障害」、第2位は脳血管障害、第3位は認知症なのです。(図2)


要支援・要介護になった原因

2013年厚生労働省国民生活基礎調査より

▲図2

要支援・要介護状態はご本人だけでなく、家族など周囲の人にとっても問題になります。ご自分だけでなく、あなたの大切な家族や友人たちのためにも、運動器の健康を維持することが重要なのです。

ロコモティブシンドロームの原因は?

平均寿命が80歳を超え、65歳以上の人口が3,000万人に達する超高齢化社会の日本では、運動器の加齢による障害がほぼ全員に生じる可能性があるという点が大きな問題になります。

加齢に伴う運動器の障害により移動能力の低下をきたす原因としては、以下の3つの病気によるとされています。

  • ① 骨粗しょう症にともなう骨折
  • ② 軟骨や椎間板の変性による変形性関節症、変形性脊椎(せきつい)症
  • ③ 脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)による神経障害や筋力低下によるサルコペニア

代表的な疾患の推定患者数を日本の人口あたりで換算しますと、変形性膝関節症2,530万人、変形性脊椎症3,790万人、骨粗しょう症は大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)が1,070万人、腰椎が640万人とされており、1つだけでなく複数の病気を持つ患者さんも多いとされています。(図3)

疾患 日本の人口あたり
変形性膝関節症 2,530万人
変形性腰椎症 3,790万人
骨粗しょう症(腰椎) 640万人
骨粗しょう症(大腿骨頸部) 1,070万人

上記の疾患に該当する人数

  • 少なくとも1つ‥‥4,700万人
  • どれか2つ以上‥‥2,470万人
  • 3つとも‥‥540万人

▲図3

ロコモティブシンドロームかどうかチェックしてみましょう!

それぞれの項目はすべて、骨、関節、筋肉などの運動器が衰えているサインです。どれか1つでも思い当たる方は、該当数0を目指して、ロコモーショントレーニング(ロコトレ)を始めましょう。

以下の項目で1つでもあてはまればロコモの可能性があります。

  • 片脚立ちで靴下が履けなくなった
  • 家の中でつまずいたり滑ったりする
  • 階段を昇るのには手すりが必要だ
  • 家のやや重い仕事が困難である(掃除機の使用や布団の上げ下ろしなど)
  • 2㎏程度の買い物をして持ち帰るのが困難である(1リットルの牛乳パック2個程度)
  • 15分くらい続けて歩くことができない
  • 横断歩道の青信号の間に渡り切れない

若いうちから運動習慣を身につけましょう!

骨量や筋肉量のピークは20~30歳代です。骨や筋肉は適度な運動で刺激を与え、適切な栄養を摂ることで、健康が維持されていきます。弱った骨や筋肉では、40~50歳代で体の衰えを感じやすくなり、60歳代以降には思うように動けない体になってしまう可能性があります。

年齢に関係なく、運動習慣のある人はない人に比べて、体力が維持されているというデータもあります。若いうちから運動習慣を身につけることが大切なのです。また筋肉や骨と同様に、軟骨や椎間板にも適度な運動負荷が必要です。ただし過度なスポーツや肥満によって「負荷をかけ過ぎる」と、軟骨や椎間板は逆に傷んでしまうこともあります。また、やせ過ぎると筋肉や骨は弱くなってしまいます。肥満もやせ過ぎも、両方とも運動器にはよくない状態です。

日本整形外科学会では、「いつまでも自分の足で歩き続けるために、ロコモを予防し、健康寿命を延ばしていくことが必要である」ことを目的とした、ロコモ対策の予防啓発を行っております。日本整形外科学会ホームページには、パンフレットやロコチェック、ロコトレなど詳しく紹介しておりますので、ぜひご参照ください。

ロコモONLINE(日本整形外科学会公式 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト)

ロコモーショントレーニング(ロコトレ)

ロコモにはいろいろなレベルがあり、十分に歩ける人と、よく歩けない人では、ロコトレのやり方も違ってきます。

ロコトレの目的は、①足腰の筋力強化、②バランス力の向上、③膝や腰への負担が軽い、とされています。自分に合った負担の少ない安全な方法で、まず「片脚立ち」と「スクワット」から始めてみましょう。

片脚立ち

左右1分ずつ、1日3回行いましょう。(図A)

左右1分ずつ、1日3回行いましょう。

▲図A

  • ※姿勢をまっすぐにしましょう。
  • ※支えが必要な人は、転倒に注意し、机に手や指をついて行いましょう。
  • ※床につかない程度に片脚を上げ、転倒しないように、必ずつかまるものがある場所で行いましょう。

スクワット

深呼吸をするペースで5~6回繰り返します。1日3回が目安です。(図B)

  1. 足は肩幅より少し広めに開いて立ちます。つま先は30度くらい開きます。
  2. 膝がつま先より前に出ないように、また膝が足の人差し指の方向に向くように注意して、おしりを後ろに引くように体を沈めます。
  3. スクワットができないときは、椅子に腰をかけ、机に手をついて、立ち座りの動作を繰り返します。

深呼吸をするペースで5~6回繰り返します。
1日3回行いましょう。

▲図B

  • ※動作の最中は息を止めないようにします。
  • ※膝に負担がかかり過ぎないように、膝は90度以上曲げないで行いましょう。
  • ※太ももの前や後ろの筋肉にしっかり力が入るように意識しながら、ゆっくり行いましょう。
  • ※支えが必要な人は転倒に十分注意し、机に手をついて行いましょう。